気象の簡単な実験

このページでは愛知教育大学で学生諸君にやってもらった実験の中から比較的簡単にできるものを選んで紹介します。中にはあまり「簡単」とはいえない(かもしれない)ものも含まれていますが、できるだけそのあたりで入手できる材料を使ってできる実験を工夫してみました。なお、気象の簡単の実験についてはここに挙げたのもの他にも面白いものがたくさんあります。下記の書物が参考になると思いますので、一読をお勧めします。このページで紹介する実験のいくつかもこれらの書物を参考にしています。

☆理科年表読本「ワクワク実験 気象学」 Z.ソルビアン著、高橋庸哉・坪井幸政訳 丸善株式会社
☆気象の教え方学び方 名越利幸・木村龍冶著 東京大学出版会
☆実験気象学入門 菊池勝弘・瓜生道也・北林興二著 東京堂出版
☆流れの科学 木村竜治著 東海大学出版会

1.大気圧の実験

2.雲の実験 (準備中です。今しばらくお待ち下さい)

3.大気の大規模な波の実験


1.大気圧の実験

(1−1) ストローでジュースを飲む
 私たちはコップのジュースを飲むのにストローを使います。ストローを使うとなぜジュースが飲めるのでしょうか。実はストローを使ってジュースを飲むという至極日常的な行為では、私たちは大気の圧力を巧みに利用しているのです。試しに、ストローの代わりに少し長いビニールチューブを使って、机の上に立ち、床に置いたジュースを飲んでみましょう。それでもジュースはのめるでしょうか。きっとジュースは飲むことはできたと思いますが、いつもよりかなり強い力で吸わないとジュースが上がってこなかったことでしょう。それはなぜでしょうか。また、ジュースを飲むことのできる高度差には限界があるのでしょうか。この問題を考えることからスタートすることにしましょう。

<実験その1> 細いビニールチューブを使って机の上に立ち、床に置いたジュースを飲んでみよう。2階から1階に置いたジュースを飲むことはできるかどうか、試してみよう。

吸い上げポンプ実はこのようにして管を使って水を吸い上げる方法は昔からよく使われています。右の図のような「吸い上げポンプ」をみなさんはどこかで見たことがあるでしょう。これは、井戸の水を汲み上げるために使われるもので、ストローを使ってジュースを飲むのと同じ原理で働くものです。

(1−2)吸い上げポンプの不思議
 この吸い上げポンプはとても便利で、昔から広く使われていました。ところが、不思議なことに、井戸の深さが10mくらいになると、いくらがんばっても水をくみ出すことができないということが知られていました。いろいろな科学者がそれを説明しようとしましたがなかなかうまくいきません。この問題に答を出したのがエヴァンゲリスタ・トリチェリーでした。1643年のことです。

(1−3)大気圧の発見
 トリチェリーの着想のポイントは「空気に重みがある」でした。管吸い上げポンプの原理の外側の水面には大気の重みがしっかりかかっているのに対して、管の内側は空気を抜き去るのでその分少ない重みが水面にかかっている。その結果、管の中の水は「押し上げられて」釣り合いを保とうとする。というわけです。管の上の空気をより多く吸い出すほど、管の中の空気の重みが減るので水面は高く上がっていきます。そして、その極限がおよそ10mということなのです。このようにして、トリチェリーは大気がおよそ10mの水の柱の重さに匹敵する重さを持っていると結論しました。これが大気圧の概念の始まりとされています。その後、大気圧と天気が密接に関係していることがわかってきました。いわゆる天気図には色々な情報が描きこまれていますが、気圧の分布がその中でも最も重要な要素になっています。
 もしも水ではなくてもっと重い液体だったら押し上げられる高さは10mよりずっと低いはずです。例えば、水銀は密度が水の13.59倍ありますので、大気圧によって押し上げられる高さは76cm程度しかありません。大気圧の大きさはそれが押し上げることのできる水銀の柱の高さで測定できることができるわけで、このようにして開発された水銀気圧計はその後長い間気象観測の重要な機器として活躍してきています。

<実験その2> 大気圧によって水の柱がおよそ10m押し上げられる様子を観察してみよう。(この実験はかつて教師実験として行われていた「水銀柱の実験」を水でやってみるものです。4階建てくらいの高さの建物が必要です。)

1.用意するもの
透明な肉厚ビニールチューブ(内径8mmくらい、長さ12mくらい)、たらい、手動式真空ポンプ、ビニールチューブの内径よりやや太い外径を持ったガラス管(1mくらい)
2.手順
☆まず、ガラス管の一方を閉じて栓を作る。ガラス管の端から20cmくらいのところをバーナーで熱して溶かし、両側にゆっくり引き伸ばしながら切断したあと、先のとがった部分を熱して丸めることにより片方を閉じたガラス管が出来上がる。よく冷えてから他方の端を適当な長さに切断して栓にする。切り口をバーナーであぶって丸めておくことを忘れないように。(写真1)
(註)ここではガラス管を使用して栓を作りましたたが、理科教材を扱う業者さんに相談するとちょうどビニールチューブにあてはまるサイズのシリコンゴム栓が入手できるでしょう。その方が安全のためにはずっと優れています。

☆水をはったたらいにビニールチューブをとぐろまきにして沈める。

☆チューブの中にたらいの水を満たす。空気が入らないようにチューブを水で満たすにはちょっとしたコツが必要である。チューブの一方の端を水に沈めたまま、もう一方の端を手動式真空ポンプにつないでチューブ内の空気を吸い出すとうまく入ってくれる。(写真2)

☆チューブ内が水で満たされたら、空気が入らないよう水中に沈めたまま一方の端に栓をする。(写真3)

☆たらいを4階建ての建物の窓の下に置いて、上からつるした紐に栓をした側の中部を括りつけ、上から引っ張り上げる。階段が4階まである場合は、階段の一番下にたらいを置いて栓をしたチューブの端を手で持ちながら階段を登ってもいい。(写真4)

☆その際に、たらいに入ったチューブのもう一方の端が水面から出ないように誰かが押さえておくことを忘れないように。

☆10mくらいチューブを引きあげると、始めは栓のところまで水で満たされていたチューブの上の部分に空間ができているのがわかる。(校舎の窓を使って実験するときはチューブの先端を室内に引き込んでから観察するように)
(写真5)
ガラス管で作った栓 手動式真空ポンプを使ってチューブを水で満たす 水中で栓をする
写真1 写真2 写真3
階段を上がる 水柱の上端
写真4 写真5

3.補足説明
☆この実験は単に大気圧によって押し上げられる水柱の高さが確認できるだけでなく、やってみると思いがけない発見があります。4階建ての建物があったら是非やってみてください。転落事故にはくれぐれも気をつけて。

☆実験の後は使ったチューブの水はすっかり抜いて乾燥させておいてください(内壁にカビが生えます)。

☆ガラス管で作った栓は割れやすいので、怪我をしないように注意しましょう。最近はシリコンゴムでできた栓が販売されており、サイズも色々ありますので、ちょうどビニールチューブに適合するサイズの栓が見つかればそれを使用する方がはるかに安全で確実です。価格的にも安価で、小さなものは1個100円もしません。

(1−4) 大気圧の大きさ
 大気の重さは水の柱約10m分に相当することがわかりました。1m2の上に10mの高さの水を積み上げると、その体積は10m3になります。水の質量は1m3あたり1000kgありますから、全体では10000kgすなわち10トンです。つまり、1m2あたりに約10トンの重みがかかっているわけです。大気は意外と重いのです。よく「空気のように軽い」という言葉が使われますが、地球の重力によって地表に押し付けられている大気全体の重さは決して軽くありません。もっとも、地表近くで1m3の空気を取り出したらその重さは1.2kg程度です。これなら他のものに比べると軽いといえるかも知れません。
 1m2あたり10トンもの力が働いているのに私たちの体やペットボトルや缶がぺちゃんこにならないのはどうしてでしょうか。それは体やペットボトルや缶の内側にも同じだけの圧力が働いて押し返しているからです。
<実験その3>アルミ缶の中の空気を抜きり、大気圧によって缶がつぶれるようすを観察しよう。

1.用意するもの
キャップ付の空アルミ缶、三脚、三角架、ガスバーナー(アルコールランプ)、軍手、マッチ、水の入った洗面器

2.手順
   
☆空のアルミ缶のふたを取って中に深さ1cm程度の水を入れる。
☆これを三脚に乗せた三角架(または金網)にかけ、バーナーで熱する。(写真1)
☆中の水が十分に沸騰したところで、急いで缶にふたをする。
☆しばらく放置するとやがて缶の中の圧力が下がり、缶は音を立ててつぶれる。(写真2)
写真1 写真2
  ⇒上の写真1を右クリックして「リンク先を名前をつけて保存」を選択すると、缶がつぶれる様子を撮影したビデオファイル(AVI形式)がダウンロードできます。ファイルサイズは38.8MBです。再生はPCに組み込んである再生ソフトを使用しますが、 Windows Media Player では音声と映像のタイミングがずれてしまいます(理由は不明)。 他の再生ソフト、例えば winamp ではタイミングのずれはありません。やや大きな音がしますので、スピーカーのボリュームにご注意下さい。
☆ふたをする代わりに、缶をさかさまにして水を張った洗面器につけてもよい。その方が急激につぶれる。

  
   
3.補足説明
飽和水蒸気圧曲線 缶の中の圧力はどのような仕組みで下がったのでしょうか。次に出てくる「雲」の実験にも関係しますので少し丁寧に説明しておきます。空気は窒素N2、酸素O2、アルゴンAr、二酸化炭素CO2、などのガスから成り立っており、そのメンバーの1つに水蒸気H2Oがあります。これらの「気体」はそれぞれ自分の圧力(分圧)をもっており、すべての気体の分圧の合計が大気圧になっています。空気のメンバーのうち、水蒸気だけは他の気体と大きく異なり、普通の温度ではその分圧がある限界より大きな値をとることができません。この水蒸気の分圧の最大値は「飽和水蒸気圧」とよばれ、温度によってその値が決まっています(右図)。
 缶の水がぐらぐらと沸騰している状態では、缶の中は温度が100℃近くまで上がり、沸騰して出てきた水蒸気によって他のガスは追い出されてしまいほぼ水蒸気だけになっています。缶の中の圧力は缶の外と同じで1気圧です。そこでふたをして放置すると、缶の中には水蒸気しかありませんから温度が下がってくるにつれてその圧力が飽和水蒸気圧曲線にそって低下してきます。例えば40℃まで温度が下がると中の圧力は73.78hPaまで低下します。これに対して缶の外側の圧力は依然として1気圧(約1013hPa)がかかっていますから、その圧倒的な圧力の違いによって缶がぺちゃんこにつぶれるわけです。
 この仕組みを理解しておかないと、この実験は、単につぶれた!つぶれた!で終わってしまう可能性があります。なお、最近は自販機で売っているソフトドリンクのアルミ缶は表面がビニールでコーティングしてあって、熱するときそれが溶け出したり焦げたりすることがあります。換気に注意してください。もちろん、熱湯を扱いますので、やけどに十分注意することはいうまでもありません。

 <気圧の単位>圧力は単位面積あたりにはたらく力ですから、その単位は[N・m-2]です。この単位は[Pa](パスカル)とも表示されます。つまり、1[N・m-2]=1[Pa]です。
 大気の圧力をPaであらわしてみると、次のようになります。質量m[kg]の物体に働く力はmg[N] (gは重力加速度で、地表近くではおよそ9.8m・s-2)であり、水1m3あたりの質量は1000kgですから、大気圧は水柱の高さ10.34mを用いて
   10.34×1000×9.8[Pa]≒101300[Pa]
です。これを1気圧とします。また、100[Pa]を1[hPa](ヘクトパスカル)と書き直して、1気圧≒1013[hPa]と書きます。

(1−5)大気圧の高さによる変化

 大気の温度が高度によってやや複雑な変化をしているのに対し、大気圧は高度とともに単調に減少しています。この高度による気圧の変化があるからこそ、大気中では雲が発生し雨が降ったりするわけで、大気圧の高度変化はいわばお天気を作り出すとても重要な舞台と言っていいでしょう。トリチェリーの指摘したように大気圧が大気の重みだとするなら、高度が高いほどその上にある大気の量が少なくなるわけですから気圧は低くなると予想されます。パスカルは1648年にこのような推論を行って、高さとともに気圧が減少すると予想し、実際にトリチェリーの水銀気圧計を携えて山に登り、高度によって確かに大気圧が減少していることを突き止めたといいます。
 スキーや登山で山に登ったとき、スナック菓子の袋がパンパンに膨れ上がっていたという経験はありませんか。下・左の写真はその様子を示します。反対に高度の高いところで缶にふたをして低地にもってくると、缶がつぶれているということもあります。下・右の写真は高度2127mの地点でふたをした缶を愛知教育大学に持ち帰ったときの写真です。
標高1800mで大きく膨らんだスナック菓子の袋 つぶれたビール缶
高度1800mでのスナック菓子の袋 高度2127mでふたをして持ち帰った缶


 もしも、真空容器(真空デシケーターなど)が手に入れば、次のような実験もできます。容器の中に半ばまで膨らませた風船を入れておいて(下の写真・左)、手動式ポンプで空気を抜いていきます。風船は次第に膨らんでいってやがてまるくなってしまいます(下の写真・右)。容器の中に高度計を入れておくと高度が上がるにつれて風船が膨らむようすがわかります。
真空容器に入れた風船−1 真空容器に入れた風船−2(空気を抜いた後)
ポンプで空気を抜く前 ポンプで空気を抜いた後(高度6000mくらいに相当)


<実験その4>高度が変わると気圧が変わることを簡単な装置を作って実験してみよう。

1.用意するもの
ガラス管(内径6〜8mm程度、長さ1m)1本、活栓つきガラス管1本、容積500ml〜1000mlのステンレス魔法瓶1個、ゴム栓(魔法瓶の口にきちんとはまるサイズ)、保冷剤少々、断熱材(エアクッションで代用)、発泡スチロールの箱
バーナー(アルコールランプ)、コルクボーラー
2.装置の基本設計
簡易気圧変化検出装置の概念図☆まず、この実験で使う「簡易気圧変化検出装置」の基本的な構造と原理を説明します。

☆右の図を参考にしながら、ガラス管をバーナーで熱して曲げます。(きれいに曲げるには多少コツが必要です。何本か失敗することを覚悟して作ってみるとよいでしょう)。

☆ゴム栓にコルクボウラーで穴を開け、上記のガラス管と活栓つきガラス管を差し込んで、瓶にはめます。

☆ガラス管のU字部分に少量の水を入れますと、これで簡易気圧変化検出装置の出来上がりです。

☆活栓を閉じておくと、瓶の中の圧力は一定ですから、外部の圧力が変化するにつ入れて、U字部分の水位が変動します。従ってこれを色々な高さにもっていけば高度による気圧変化を目に見ることができるはずです。
3.断熱のための工夫
 この装置を使うと比較的簡単に高度と気圧の変化を対応させてみることができますが、このままで使用してみると水位が不自然な動きを示すことが少なくありません。それはビンの中の温度が変化することによって内部の気圧が変化するからです。
 そこで、ビンの中の温度が少なくとも数分の時間内では変化しないように装置を工夫します。まず、上のような広口瓶を使う変わりに断熱性に優れた魔法瓶を使用します。容積は大きければ大きいほどいいですが、市販の魔法瓶は少し容積の大きなものは口のところがネジになっていて、ゴム栓がぴったりはまらないものが多いので、慎重に選ぶ必要があります。これだけでかなり内部の温度が変化しにくくなっていますが、さらに、これを温まりにくくさめにくい物質(熱容量の大きな物質)で包んで、高度による温度変化がすぐには瓶に伝わらないようにします。ここではDIYショップで売っている保冷材を使います。そして、そのまわりをさらに断熱材(エアクッションなど)で包み、全体を発泡スチロールの箱に入れてしまいます。下の写真参照。これで、数分程度の実験であれば、外界の温度変化については全く気にしないで行うことができるようになります。ただし、直射日光に当てるなどすると予想外の結果になる可能性もありますので注意してください。。
ステンレスポットを使用して作った簡易気圧変化検出器 保冷材を巻く 断熱材で巻いて発泡スチロールの箱に入れる 出来上がり
ステンレスポットを使用 保冷材を巻く 断熱材で包んで発泡スチロールの箱に入れる 出来上がり
4.実験
☆1階の階段の下に装置を持って行き、活栓を一度開いて閉じる。このときU字部分の水位A、Bは同じ高さを示している。

☆これを3階までもって行ってU字部分の水面の高さの差を読み取る。高度が上がると、ビンの中の気圧はほとんど変化しないのに対して、大気圧は減少するので、Aが上昇し、Bは下降しています。

☆今度は3階で活栓を一度開いて閉じます。これでU字部分の水位は同じになっているはずです。

☆これを再び1階にもっていくと今度はAが下降しBが上昇しています。

☆エレベーターに乗せて見ていると水位が見る見る変化するので気圧変化をダイナミックに捉えることができます。

5.補足説明
☆地表付近では、高度10mに対して水位の差は計算上は8.8mm程度になるはずです。下に気圧の高度変化についての説明を載せましたので、これを参照して確認してください。しかし、一般に測定値はこれよりもわずかに小さくなります。それはU字部分の水の動きによって容器内の空気が少しだけ圧縮されたり膨張したりして、その反発力が働くからです。容器の容積を十分に大きくすればこの問題は避けられますが、500ml程度の魔法瓶を使用した場合は多少その影響が現れます。

☆実験をする際は、ガラス管の部分が損傷しやすいので、持ち運びには十分注意してください。

 高度による気圧の変化の割合は、どの高さでも同じではありません。大気は重力によって地表に押し付けられていますので、地表近くの大気はぎゅっと押し縮められていますし、高層の大気は大きく広がっています。それは座布団をたくさん積み重ねたときのようすを想像すればわかります。下のほうの座布団が上の座布団の重みでぺちゃんこにつぶれているのに対して、上のほうの座布団はふかふかのままでしょう。従って高度差1mあたりの空気の質量は下層で大きく、上層で小さくなっています。だから、1m上昇したときの圧力変化(低下)は下層で大きく、上層で小さいと考えられます。静水圧の原理このことをもう少しきちんと考えて見ましょう。
 いま、大気中に地表から大気上端まで延びる長い空気の柱を考えます。断面積を1m2とします。高度Z1で気圧がP1であるとし、その少し上の高度Z2で気圧がP2であるとします(右図)。このとき、P2とP1の差は、右の図で黄色の水平面で仕切られた部分の空気の重さに等しいわけですから、この間の空気の密度をρと書くと、
  (P2−P1)×1=−ρ×1×(Z2−Z1)×g
gは重力加速度です。左辺に1がかけてあるのは、気圧は単位面積あたりの力なので、実際に働く力に直すには断面積をかける必要があるからです。また、右辺にマイナスがついているのは気圧が高度とともに減少するからです。結局、
  (P2−P1)/(Z2−Z1)=−ρg
という関係が得られます。これは単位の距離上昇したときの気圧の低下の割合が空気の密度と重力の加速度の積で与えられることを表しており、「静水圧平衡の式」と呼ばれています。地球大気の平均的な高度と気圧の関係をグラフに表したものを下に示します。
大気圧の高度分布0-120km 大気圧の高度分布0-10km
地表から120kmまでの平均的な大気圧分布 地表から10kmまでの平均的な大気圧分布

  
左の図は地表から高度120kmまでの気圧変化を示したものです。30kmくらいまでは急激に気圧が低下していますが、その上では気圧はほぼ一定で、ゼロに近い状況となっています。このことは、地球大気の厚さが実質的には30km程度であることを示しています。
 地表から10kmまでの部分を拡大したものが右の図です。大気の下層では気圧の低下の割合は大体一定しており、大雑把に言って1km上昇するごとに気圧はほぼ100hPa減少しています。この割合は上で計算した式−ρgにρ≒1.0、g=9.8を代入して計算した値、−10[Pa・m-1]に対応します(=−100[hPa・km-1])。
 上の気圧分布は平均的なもので、細かく見ると場所によって少しずつ異なります。例えば大気上層で気圧が700hPaである点を連ねていってできる面(等圧面といいます)はほぼ高度3000m付近にありますが、多少場所によって高いところと低いところができます。この等圧面の高低を地形図のように等高度線で表したものが高層天気図です。等圧面の高度が高い所(等高度線の値が大きい所)が水平面で見たときに気圧の高いところに対応します。高層天気図は850hPa、700hPa、500hPa、300hPa、100hPa などの等圧面で描かれるのが普通です。実際の天気図は例えば北海道放送局のホームページのお天気のサブページから入手できますので、参照してみてください。
  

2.雲の実験

          近日公開予定です。いましばらくお待ち下さい。

3.大気の大規模な波の実験

§1 はじめに
 下の写真は気象衛星の雲画像の例です(気象庁ホームページ中の気象衛星のページより)。太平洋には2つの台風が見えていますが、今はそこではなく、日本列島のあるあたりの緯度(北緯30°〜50°)に注目してください。白い雲の集団がほぼ等間隔で東西に並んでいるのがわかります。これらは低気圧による雲です。雲の集団の間にある晴れている部分は高気圧に対応します。つまり、低気圧と高気圧が交互に並んでおり、低気圧同士の間隔は3000kmくらいです。これらはただ並んでいるのではなくて西から東へと移動しています。移動している様子は上記の気象衛星のページを参照するとアニメーションで見ることができます。
    
 日本列島のあるあたりの緯度では南北の温度差が他のところよりも大きく、その大きな温度差によって強い偏西風が吹いています。大気は南北の温度差を解消させる方向に大規模な運動を起こすのですが、地球が自転しているために単純な南北の流れにならず、西風になってしまうのです。そして、ある程度温度差が大きいときはこの西風がまっすぐ東向きに吹くことができず、南北に波打って流れるようになります。つまり偏西風が波打って流れるわけです。流れが北に振ったところは「気圧の尾根」と呼ばれ、気圧は高くなります。、南に振ったところは「気圧の谷」と呼ばれ、気圧が低くなります。これに対応して地上では高気圧と低気圧が交互に現れることになります。
 つまり、中緯度の移動性高低気圧は上空の偏西風に生じた波動を地上で見たものと言えます。偏西風にこのような波動が発生し発達する仕組みは理論的に解明されていますが、ここで述べるには少々複雑すぎます。そこで、ここでは何はともあれ、温度差が大きくて回転しているシステムを実験室で再現し、流れの中に波が発生する様子が見えるようにすることを試みます。

§2 簡単なモデル
大気のモデル 実験室で再現したい要素を整理しますと、まず北極を取り巻いて環状に流れる中緯度の流れであって、南北に温度差があること、そして北極の周りに地表面が反時計回りに回転していること、この3点です。その構造は右の図のようなモデルで表されます。これは北半球を北極の上から見た図に相当します。中央に北極を取り巻く冷たい大気、外側に亜熱帯の暖かい大気があり、その間に中緯度の大気があって、全体が反時計回りに回っています。この構造を再現することができる実験装置を作ります。模型では大気の代わりに水を使って流れの様子を調べることにします。

§3 回転水槽を作る
 実験装置では回転、同心円、回転軸方向の温度差という3つの条件が再現される必要があります。東京大学の木村龍治教授(現在は放送大学)は、レコードプレーヤーのターンテーブルの上に洗い桶を載せて簡単な装置を作っておられますが、ここでは別の方法として「ろくろ」を使う方法を提案します。愛知県は焼き物の町・瀬戸を擁していますので、ろくろを入手できるお店には困りません。電動式のろくろも販売されていますが回転数を自在に変化させる必要があるので、ここでは手回しのろくろを使うことにし、回転の方は別途電動モーターによって駆動します。回転式のろくろは1万円ほどで手に入ります(写真1)。
 次に同心円状の構造を作るために、ろくろに乗せる容器を用意します。ここでは、家庭用品ショップで底の平らな鍋とステンレス容器(大、小)を買ってきて使います(写真2)。流れの様子が目に見えるようにするために水に浮かべる銀粉(アルミ粉)も必要です。中心を共有するように容器群をろくろの上に乗せて適当な深さに水を入れればればこれで模型の「大気」が出来上がりです(写真3)。同心円状の隔壁で隔てられた3つの部屋のうち、一番外側に40℃程度のお湯、一番内側には氷水、そして中央の部屋には常温の水道水を入れます。もちろん外側が亜熱帯、内側が寒帯(北極)を表し、中央の水道水がわれわれの中緯度の大気を表します。このようにして中緯度の大気の動きを調べるのがこの実験の目的です。調べる対象となる部分の流体(この場合は真ん中の部屋の水)を「作業流体」と呼ぶことがあります。作業流体の表面の動きが目に見えるようにするために少量のアルミ粉を浮かべます(写真4)。この場合特に注意の必要な点は、すべての容器の中心がろくろの回転の中心にきちんと位置するように乗せることです。
 実験装置を組み立てる上での最大の難関はモーターです。これは自作が難しいので既製品を購入するほかありませんが、1回転の時間を1秒〜30秒と広範囲で変化させることができてしかも安定に回る(ある程度トルクがある)モーターを探すとなると、多少出費が必要になってしまいます。ここではオリエンタルモーター社製のブラシレスモーター(KBL-5120GDA2)を使用しました。これは商用電源を使い、付属の制御ボックスで回転の方向や速度を制御します。このモーターは114000円と少々高価でしたが、近々製造中止とのことで、後継機(BX5120A-5)がこれよりずっと安価に提供されています。このモーターにプーリーをつけて固定し、別に固定した手回しろくろにビニールひもでベルトを作って回すようにしました(写真5)。制御部も含めた駆動系の全景を写真6に示します。 

  (写真1) 手回し式のろくろ

  (写真2) 容器群とアルミ粉

   (写真3) ろくろに鍋を乗せる

  (写真4) 作業流体の可視化

(写真5) モーターとプーリーで駆動

(写真6) 制御部を含めたモーター部
§4 実験

 (4−1)軸対照流
子午面内の循環 外側と内側の部屋の温度差を30〜40℃程度にして装置を極めてゆっくりと反時計回りに回転させて見ますと、やがて「中緯度」の水に浮かべたアルミ粉は容器といっしょに回転するようになります。しかし、よく観察すると、個々のアルミ粉は容器よりも少し速く(容器を追い越して)流れているのが分ります。その様子を写真7、8に示します。写真7はストロボ発光を止めてやや露出時間を長くしたもの、写真8はストロボ発光で撮影したものです。流れが軸対称となっていますので、このような流れは「軸対称流」と呼ばれます。
 回転水槽を中心を通る鉛直面で切った概念図を右に示します。一番外側の部屋に温水、中心部に冷水があり、その間に作業流体(水道水)が入っています。作業流体は外側の温水で温められて上昇し、内側の冷水で冷やされて下降しますので、図に示すように作業流体の表面では内側に向かう流れ、下層では外側に向かう流れが生じ、作業流体は鉛直面内で循環するようになります。このような循環を「子午面循環」といいます。
 もし回転がなければ、子午面循環によって作業流体の表面では内側に向かう流れが見られるはずです。その場合はアルミ粉は中央部に吹き寄せられるような形に集まってきます。ことろが、装置全体がゆっくりと反時計回りに回転する場合は、表面で内側に向かう流れは右向きに方向を曲げられて、ついには子午面に直角な方向に流れるようになります。これが上で見た軸対称流です。(実際には完全に直角になるわけではなく少しだけ子午面内の動きが残り、それによって熱が外側から内側に運ばれます)。
 この循環は実際の大気中で赤道から北緯30°あたりまでで起きている子午面循環に対応するもので、研究した学者の名前をとって「ハドレー循環」と呼ばれています。

 (4−2)波動
 軸対称流ができている状態から少しずつ回転速度を大きくしていきますと、あるところで流れの様子が一変します。これまでの軸対称流が姿を消し、写真9に示すように波打った流れが見られるようになります。しかも、流れが帯のように狭い範囲に限定されており、波打った帯の外側には時計回りに回転するアルミ粉のかたまりが、内側には反時計回りに回転するアルミ粉のかたまりが見られます。よく観察するとアルミ粉はジェットに沿って流れる一方、波そのものもゆっくりと容器に対して反時計回りに移動しているのがわかります。
 この帯状の流れは中緯度の高度10km付近に見られるジェット気流に対応するものであり、実際の大気中でジェット気流が南北に波打って流れている様子が表現されています。ジェット気流の外側の時計回りに回転する部分は高気圧、内側の反時計回りに回転する部分は低気圧に対応しており、その配列が波の移動と共にゆっくりと反時計回りに移動する様子は、中緯度地方で高気圧と低気圧とが東西に交互に並んでゆっくりと東に進む様子に対応します。
 この状態になると、作業流体が温度の高い外壁に向かう流れと温度の低い内壁に向かう流れがあるために、ハドレー循環よりはずっと効率よく熱を運ぶことができます。このような波の働きによって熱を運ぶ循環は「ロスビー循環」と呼ばれます。
 回転数を色々に変えて実験を行ってみると、波の数が3、4、5、6と様々に変化します(写真9−12)。回転を速くすると次第に波の数が増加していき、ある限度を超えると流れは不規則に乱れたものに変ります。

   (写真7) 軸対称流−1

    (写真8) 軸対称流−2

      (写真9) 波数4の波

    (写真10) 波数3の波

     (写真11) 波数5の波

     (写真12) 波数6の波
§5 補足説明
 この実験装置は回転の速さを変化させることができますが、温度については制御できません。もし、外側の部屋のお湯の温度と内側の部屋の冷水の温度をコントロールできるなら、軸対称流から波動への転移が温度差を大きくすることによっても生じることがわかります。また、容器をすべてガラス製にして、作業流体に液晶を溶かしこむことによって作業流体内部の温度分布を色で見分けられるようにする試みもなされています(川平浩二氏ほか)。
 地球自転の効果は実際の大気では「コリオリの力」として現されます。これは実際に働く力ではなく、「働いているとみなすことによって運動の説明が簡明になるような見かけ上の力」です。このあたりは少々分りにくいですが、詳しい説明は割愛します。ただ、コリオリの力は緯度によって大きさが異なり、北極で最大、赤道でゼロであることだけ付記しておきます。つまり回転速度を速くするということはより高い緯度の状況を表すことになるわけです。ハドレー循環が赤道近くに現れ、ロスビー循環が中緯度に現れるのはこのためです。
 中緯度地方の偏西風が波打って流れる様子は、気象衛星写真でも見ることができますが、高層天気図でもはっきりと見ることができます。例えば北海道放送のページで提供されている高層天気図を参照して確かめてみてください。